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「子どもの権利とスポーツの原則」って?

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  • 1989年に国連で誕生した「子どもの権利条約」には、世界中すべての子どもが、もって生まれた能力を十分に伸ばし、幸せに成長していくために、守られなければならない「子どもの権利」が書かれています。たとえば、命が守られること、健康でいられること、教育を受けること、休んだり遊んだりすること、意見を言うこと、暴力から守られること。他にもいろいろあります。

    スポーツは、子どもの心と体を元気にします。チームワーク、フェアプレーやリスペクトなど、スポーツ以外にも通じる大切なことを、学ぶことができます。また、スポーツには、紛争(ふんそう)や災害で被害(ひがい)を受けた人たちを元気にする力、みる人を元気にする力、差別をなくしていく力など、たくさんの力があります。

    でも、残念なことに、時々、スポーツをする中で子どもが体罰(たいばつ)を受けたり、きびしい言葉で傷ついたり、体に負担がかかりすぎて将来スポーツを続けられなくなったり、そもそもスポーツをする機会をあたえられないなどの問題も起きています。ユニセフはそれを、「子どもの権利が守られていない」状態と考えます。性別や年齢(ねんれい)、国籍(こくせき)、障がいがあるかないかなどに関係なく、子どもは、暴力などから守られ、安心して楽しめる環境(かんきょう)で、年齢(ねんれい)や能力にふさわしいかたちで、スポーツをする権利があるのです。

    ユニセフは、専門家の人たちなどと協力して、スポーツが、子どもの心と体のすこやかな成長を助け、「子どもの権利」の実現を助けるものになるよう、この「子どもの権利とスポーツの原則」をつくりました。

    スポーツをする子どもたちにはどんな「子どもの権利」があるのでしょうか?子どものスポーツに関わるおとなたちは、どんなことに気を付け、何をしなければならないのでしょうか?すべての子どもたち、特に、スポーツをがんばっているみなさんに、知っておいてほしい内容です。ぜひ、読んでみてください。

スポーツをする子どもたちの 「子どもの権利」スポーツをする子どもたちの 「子どもの権利」

原  則1
スポーツと子どもの権利 ~
一番大切なこと

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  • ①常に「子どもにとって最もよいこと」を考えること

    いつどんなときでも、子どもにとって最もよいことは何か、が第一に考えられなければなりません。「試合に勝つことだけが大事」という考え方は、必ずしも「子どもにとって最もよいこと」につながらないかもしれません。体をこわしたりスポーツがきらいになったりして、スポーツを一生楽しむことができなくなってしまうかもしれません。そのことをよく考える必要があります。

  • ②子どもの意見が尊重されること

    子どもは、スポーツをする中で、練習や試合・大会など、自分に関係のあることについて自由に意見を言う権利をもっています。その意見は、子どもの発達に応じて、十分に考慮(こうりょ)されなければなりません。スポーツをする子どもの中には、トップ選手をめざしている子どもも、スポーツを楽しみたい子どももいます。どんなふうにスポーツをしたいのかについても、子どもの意見が大切にされなければなりません。

  • ③差別されないこと

    子どもは、国のちがいや、性のちがい、どのような言葉を使うか、どんな宗教を信じているか、どんな意見をもっているか、心や体に障がいがあるかないか、お金持ちであるかないか、親がどういう人であるか、などによって差別されません。
    障がいがある子どもたちもふくめ、みんながスポーツを楽しめるよう、施設やルール、道具などが工夫されなければなりません。

  • ④傷つけられないこと

    子どもは、スポーツの中で、暴力をふるわれたり、ひどい言葉で傷つけられたりすることがないように、守られなければなりません。たとえ指導を目的にしていたとしても、言葉の暴力も身体的な暴力も、絶対に許されません。

  • ⑤子どもの成長を助けること

    スポーツは、子どもの心と体のすこやかな成長を助け、子どもがフェアプレー、チームワーク、リスペクトなどの大切なことを身につけるものでなければなりません。

原  則2
スポーツ以外の活動とのバランスが
大切にされなければなりません

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  • ①バランスのとれた成長が大切にされること

    子どもは、心も体もすこやかに成長できるような生活を送る権利があります。そのためには、家族と過ごす時間が大切にされなければなりません。子どもがもっている能力を最大限のばし、スポーツ以外にも様々なことを経験しながら、バランスのとれた成長ができるよう、年齢(ねんれい)にあった学び、遊び、スポーツや文化的な活動の機会が子どもに提供されなければなりません。
    また、フェアプレーやチームワーク、健康でバランスのとれた食事や規則正しい生活などについて、子どもたちが学ぶことが大切です。トップアスリート(選手)をめざす子どもには、スポーツ選手としての人生について、すべての子どもがトップアスリートになることができないことなど、その難しさやきびしさもふくめて、様々な情報も重要です。

  • ②教育を受ける権利が大切にされること

    子どもは教育を受ける権利をもっています。トップアスリート(選手)をめざす子どもをふくめ、スポーツをするすべての子どもに、十分な学習の機会と時間があたえられなければなりません。子どもが必要とするときには、勉強や進路のことを相談できる、信頼(しんらい)できるおとなを紹介してもらえることも大切です。

原  則3
子どもは、スポーツに
関わる暴力などのリスクから
守られなければなりません

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  • ①暴力などから守られること

    子どもは、スポーツの練習や試合などの中で、どのようなかたちの暴力や暴言からも守られる権利があります。そこには、たたかれたりけられたりすること、ひどいことを言われることだけでなく、きちんと指導してもらえないこと、心や体が傷つくほどのトレーニング、理由がわからないきびしすぎるルールや罰則(ばっそく)、いじめ、性的なものをふくむいやがらせ(ハラスメント)なども含まれます。子どもたちは、そのことをよく知って、危険をさける方法も知っていることが大切です。子ども同士、ネット上のものを含め、子どもに対するどんなかたちの暴力や暴言も、禁止されなければなりません。

  • ②資格をもった人から指導を受けること

    子どもは、必要な知識や技術、資格をもったおとなに、スポーツを教えてもらわなければなりません。

  • ③安全な環境でスポーツすること

    事故やけがを防ぐ対策がとられ、練習や試合の中で事故が起きてしまった場合は、なぜそのようなことが起きたのか、よく調べ、また同じことが起きないようにしなければなりません。また、知らない人が入ってこられないような、子どもにとって安心で安全な環境が用意されなければなりません。試合や練習のために移動するときの交通手段や、泊まる施設(しせつ)も、安全・安心なものでなければなりません。

  • ④不正なことに巻き込まれないこと

    子どもが、勝ち負けの操作(わざと勝つ、負けるなど)などの不正なことに巻き込まれないようにしなければなりません。
    試合に出る選手は公平に選び、なぜその選手が選ばれたのかが誰にでもわかるようにして、「おくり物などへのお礼(見返り)に試合に出られる」などということがないようにしなければなりません。

  • ⑤あらゆる搾取(さくしゅ)から守られること

    子ども自身の幸せを考えずに、スポーツをする子どもが使われてはなりません。誰かが得をするために子どもの幸せがうばわれてしまうようなこと(「搾取(さくしゅ)」)は、商売のためでも、政治のためでも、社会のためでも、どんな目的のためでも許されません。

原  則4
子どもの健康が守られなければなりません

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  • ①心と体の健康が守られること

    子どもは、健康でいられ、必要な医療(いりょう)やサービスを受ける権利をもっています。心や体が傷つくほどのトレーニングや体の使い過ぎなどによって、心や体の健康が害されることがないよう、年齢(ねんれい)や成長にあったスポーツの種類や取り組み方が考えられなければなりません。必要なときは、他のチームや団体などとも協力して、体やその一部(たとえばひじ)の使い過ぎにならないための決まりがつくられることも大切です。
    おとなの期待にこたえようとして子どもががんばりすぎると、けがなどでそのスポーツを将来続けることが難しくなるリスクがあるので、おとなはそのことを伝え、子どもが冷静に考えられるよう助けなければなりません。子どもが心や体の健康について相談したいときは、専門家を紹介してもらえることも大切です。

  • ②ドーピングから守られること

    子どもはドーピング(禁止されている薬や方法で強くなろうとしたり勝とうとしたりすること)から守られなければなりません。また、たとえ禁止されていない方法(たとえば栄養剤)であっても、心や体へのえいきょうをよく考えずに、今強くなること、勝つことを目的に提供されてはなりません。そのためには、子どももまわりのおとなも、健康でバランスのとれた食事について、栄養や薬などについて、正しい情報を学ぶことが大切です。体重管理をしなければならないスポーツの場合は、摂食障害(食べられない、または食べ過ぎるなど)にも気をつけなければなりません。

  • ③適切な生活習慣を整えること

    1日の24時間は、スポーツのためだけにあるわけではないので、子どもが学習、休息や寝る時間もきちんととれるよう、スポーツをする時間を決めて、よい生活習慣を整えて、子どもの心と体の健康が守られなければなりません。

原則にはほかにもこんなことが書かれています

チームは

原  則5
子どもの権利を守るしくみをつくります

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  • ①方針をつくること

    子どもの権利を守るための方針をつくって、チームの中の人も外の人もわかるように公表します。

  • ②対策をとること

    活動の中で、子どもの権利が守られないどんな可能性があるのか、問題が起きるより前に調べて、対策をとります。

  • ③ルールややり方を決めて実行すること

    方針で決めたことを実現するための具体的なルールややり方を決めて、実行します。

  • ④定期的に調べること

    子どもの権利が守られているかどうか定期的に調べ、必要なときは改善します。

  • ⑤相談窓口を決めて知らせること

    子どもが、暴力や暴言、行き過ぎたトレーニング、体の使い過ぎなどの問題を感じたときに、秘密が守られるかたちで相談できる窓口を決めて(チームの中でも外でもよい)、それを子どもにわかりやすく知らせなければなりません。子ども以外でも、おかしいと思った人は誰でも相談できるしくみが大切です。相談を受けたときには、「子どもにとって最もよいこと」を第一に考え、子どもの意見も十分考慮(こうりょ)して、問題が解決されるようにしなければなりません。

原  則6
みんなが子どもの権利を学び、
話し合えるようにします

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  • ①子どもの権利を勉強すること

    チームにいろいろな立場で関わるおとなを選ぶとき、子どもの権利のことをよく知っていて守る人、子どもに暴力・暴言などをしたことがない人を選ばなければなりません。それらのおとなが、子どもの権利について、定期的に勉強する機会をつくることも大切です。

  • ②話し合う場をつくること

    チームのおとな、保護者、学校、おとなの選手などいろいろな人が、定期的にこの原則に書いてあるようなことを話し合う場をつくらなければなりません。特に、子どもが思ったことを自由に話せる場があることも大切です。

チームを応援(おうえん)する
会社など(スポンサーなど)は

原  則7
応援(おうえん)するかどうか決めるときに、
そのチームが子どもの
権利を守っているかどうか、
チェックします。
原  則8
協力しているチームと一緒に、
もっと子どもの権利が
守られるにはどうしたらいいか、
考えます。

おとなの選手たちは

原  則9
子どもの権利を守るために協力します

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  • ①自分の経験をふまえて他のおとなと話すこと

    子どものときに、今の子どもたちと同じような思いや経験をしたことがあり、子どもが意見を言いにくいこともよく知っているおとなの選手たちは、自分の経験もふまえて、チームやスポンサーの人たちと、子どもの権利がどうすればもっと守られるか話をします。

  • ②自分の経験をふまえて子どもや保護者と話すこと

    暴力・暴言、心や体が傷つくほどのトレーニング、体の使い過ぎなどの問題があるときには子どもがすぐに気づけて、迷わず相談できるように、自分の経験もふまえて、どのようなことは問題で相談すべきことなのかなどについて、子どもや保護者と話をします。

保護者は

原  則10
子どもが権利を守られ、
スポーツを通して心も体も
すこやかに成長できるよう助けます

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  • ①子どもと話をして、必要なサポートを考えること

    子どもの一番大切な支援者として、子どもが、もっている力を発揮して、スポーツをしている時間を楽しむことができ、バランスのとれた生活が送れるよう助けます。どんなふうにそのスポーツをしたいのか子どもとよく話をして、必要なサポートは何かを考え、必要以上に期待しすぎたり、関わりすぎたりしないようにします。ときには、子どもががんばりすぎてしまわないよう、保護者が止める必要があることも知っておきます。

  • ②チームの人たちと話をすること

    必要なときにはチームの人たちともよく話をして、子どもの権利を守ります。

  • ③問題が起きていないかいつも気にかけること

    何か問題が起きていないかいつも気にかけ、問題を見つけたときや、子どもから相談を受けたときには、「子どもに最もよいこと」を第一に考えて、解決するように助けます。